ば分かる。そのうち雲のなかで雷鳴がした。
日本本土では天の範囲が狭いから那須野のやうなところにゐても、雲が天を蔽《おほ》ふといふやうなことも稀《まれ》でないが、満洲の天は前後左右が唯渺漠としてゐて雷雲が天に充満するなどといふことは、実に容易ならぬことである。
雷鳴も追々遠くなり、豪雨の降らざる冬雷として私の記憶に残つた。またそのとき始めて雁の一群を見ることの出来たのも、私の記念として歌一首に残つた。私は斯《か》くのごとき渺漠とした満洲の風光を愛して措《お》かないが、そのうち満洲帝国が興つたので、二たび満洲の雷鳴を聞きたいとおもつてゐる。
底本:「斎藤茂吉選集 第十一巻」岩波書店
1981(昭和56)年11月27日第1刷発行
初出:「東京朝日新聞」
1937(昭和12)年8月25〜27日
入力:しだひろし
校正:門田裕志
2006年10月18日作成
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