《ね》らく愛《はし》けらくさ寝《な》らくは伊豆の高嶺《たかね》の鳴沢《なるさは》なすよ」(三三五八或本歌)などでも東歌的動律だが、この方には繰返しが目立つのに、鎌倉の歌の方はそれが目立たずに快い音のあるのは不思議である。

           ○

[#ここから5字下げ]
武蔵野《むさしぬ》の小岫《をぐき》が雉《きざし》立《た》ち別《わか》れ往《い》にし宵《よひ》より夫《せ》ろに逢《あ》はなふよ 〔巻十四・三三七五〕 東歌
[#ここで字下げ終わり]
「岫」は和名鈔《わみょうしょう》に山穴似[#レ]袖云々といっているが、小山に洞《ほら》などがあって雉子の住む処を聯想せしめる。雉が飛立つので、「立ち別れ」に続く序詞とした。「逢はなふよ」は「逢わず・よ」「逢わぬ・よ」、「逢わない・よ」である。一首の意は、あの晩に別れたきり、いまだに恋しい夫に逢《あ》わずに居ります、という女の歌であるが、結句の訛《なまり》と、「よ」なども特殊なものにしている。東歌には、結句に、「鳴沢《なるさは》なすよ」などもあり、他に余りない結句である。この歌の結句は、「崩岸辺《あずへ》から駒の行《ゆ》こ如《の》す危《あや
前へ 次へ
全531ページ中434ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 茂吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング