(燈・美夫君志)、或は、戯れに諭《さと》すような分子があると説いたのがあるのは(考)、一首の甘美な愬《うった》えに触れたためであろう。
「袖振る」という行為の例は、「石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか」(巻二・一三二)、「凡《おほ》ならばかもかも為《せ》むを恐《かしこ》みと振りたき袖を忍《しぬ》びてあるかも」(巻六・九六五)、「高山の岑《みね》行く鹿《しし》の友を多み袖振らず来つ忘ると念ふな」(巻十一・二四九三)などである。
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紫草《むらさき》のにほへる妹《いも》を憎《にく》くあらば人嬬《ひとづま》ゆゑにあれ恋《こ》ひめやも 〔巻一・二一〕 天武天皇
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右(二〇)の額田王の歌に対して皇太子(大海人皇子、天武天皇)の答えられた御歌である。
一首の意は、紫の色の美しく匂《にお》うように美しい妹《いも》(おまえ)が、若しも憎いのなら、もはや他人の妻であるおまえに、かほどまでに恋する筈《はず》はないではないか。そういうあぶないことをするのも、おまえが可哀いからである、というのである。
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