する恋といっても、題詠ではなく、斯《こ》ういう歌が先ず出来てそれから寄[#レ]物恋と分類したものである。この歌は序詞のおもしろみというよりも、全体が実生活を離れず、特に都会生活でない農民生活を示すところがおもしろいのである。巻十二(二九九一)に、「垂乳根の母が養《か》ふ蚕《こ》の繭隠《まよごも》りいぶせくもあるか妹にあはずて」というのがあり、巻十三(三二五八)の長歌に、「たらちねの母が養ふ蚕の、繭隠り気衝《いきづ》きわたり」というのがあるが、やはり此歌の方が旨い。「いぶせく」では続きが突如としても居り、不自然で妙味がないようである。

           ○

[#ここから5字下げ]
垂乳根《たらちね》の母《はは》に障《さは》らばいたづらに汝《いまし》も吾《われ》も事《こと》成《な》るべしや 〔巻十一・二五一七〕 作者不詳
[#ここで字下げ終わり]
 正述[#二]心緒[#一]。作者不明。一首の意は、母に遠慮して気兼してぐずぐずしているなら、お前も私もこの恋を遂げることが出来んではないかというので、男が女を促す趣の歌である。男が気を急いで女に向って斯《か》くまで強いことをいうのも或《あ
前へ 次へ
全531ページ中376ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 茂吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング