ぬか、それにあなたはちっとも御見えになりませぬ、というのであるが、なお一説には「陸奥の真野の草原《かやはら》」までは「遠く」に続く序詞で、こうしてあなたに遠く離れておりましても、あなたが眼前に浮んでまいります。私の心持がお分かりになるでしょう、と強めたので、「見ゆとふものを」は、「見えるというものを」で、人が一般にいうような云い方をして確《たしか》めるので、この云い方のことは既に云ったごとく、「見ゆというものなるを」、「見ゆるものなるを」というに落着くのである。女郎《いらつめ》が未だ若い家持に愬《うった》える気持で甘えているところがある。万葉末期の細みを帯びた調子だが、そういう中にあっての佳作であろうか。また序詞などを使って幾分民謡的な技法でもあるが、これも前の紀皇女《きのひめみこ》の御歌と同じく、女郎《いらつめ》に即したものとして味うと特色が出て来るのである。

           ○

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百《もも》伝《つた》ふ磐余《いはれ》の池《いけ》に鳴《な》く鴨《かも》を今日《けふ》のみ見《み》てや雲隠《くもがく》りなむ 〔巻三・四一六〕 大津皇子
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