しミダレドモと訓むならばもっとよいのだから、私はミダレドモの訓に執着するものである。(本書は簡単を必要とするからミダル四段説は別論して置いた。)
 巻七に、「竹島の阿渡白波は動《とよ》めども(さわげども)われは家おもふ廬《いほり》悲しみ」(一二三八)というのがあり、類似しているが、人麿の歌の模倣ではなかろうか。

           ○

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青駒《あをこま》の足掻《あがき》を速《はや》み雲居《くもゐ》にぞ妹《いも》があたりを過《す》ぎて来《き》にける 〔巻二・一三六〕 柿本人麿
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 これもやはり人麿が石見から大和へのぼって来る時の歌で、第二長歌の反歌になっている。「青駒」はいわゆる青毛の馬で、黒に青みを帯びたもの、大体黒馬とおもって差支ない。白馬だという説は当らない。「足掻を速み」は馬の駈《か》けるさまである。
 一首の意は、妻の居るあたりをもっと見たいのだが、自分の乗っている青馬の駈けるのが速いので、妻のいる筈の里も、いつか空遠《そらとお》く隔ってしまった、というのである。
 内容がこれだけだが、歌柄が強く大きく、人麿的声調を遺憾なく発
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