。
一首は、こちらの里には今日大雪が降った、まことに綺麗だが、おまえの居る大原の古びた里に降るのはまだまだ後だろう、というのである。
天皇が飛鳥の清御原《きよみはら》の宮殿に居られて、そこから少し離れた大原の夫人のところに贈られたのだが、謂わば即興の戯れであるけれども、親しみの御語気さながらに出ていて、沈潜して作る独詠歌には見られない特徴が、また此等の贈答歌にあるのである。然かもこういう直接の語気を聞き得るようなものは、後世の贈答歌には無くなっている。つまり人間的、会話的でなくなって、技巧を弄した詩になってしまっているのである。
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わが岡《をか》の※[#「靈」の「巫」に代えて「龍」、第3水準1−94−88]神《おかみ》に言《い》ひて降《ふ》らしめし雪《ゆき》の摧《くだけ》し其処《そこ》に散《ち》りけむ 〔巻二・一〇四〕 藤原夫人
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藤原夫人《ふじわらのぶにん》が、前の御製に和《こた》え奉ったものである。※[#「靈」の「巫」に代えて「龍」、第3水準1−94−88]神《おかみ》というのは支那ならば竜神のことで
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