も少女はこらえていた。見さかいがつかなくなった鶴見である。それからというもの、かれは本能の獣性の俘《とりこ》となって、牽《ひ》かれゆくままに行動した。
 折からの季節は真夏であった。あたりには白熱の光線が満ち溢れている。その中にあって鶴見の性慾は更に激しく燃えたった。そこには枝葉を繁らす樹木もなく濶達《かったつ》な青空もない。すべては発火点に達して、夢中になって狂躁曲を奏しているようにしか見えない。その光景は正《まさ》に迷妄世界の大火災を思わせるが、鶴見にはもうそう思ってみる余裕すらない。どこを見てもかれの見るところに性慾の焔《ほのお》が燃え移ってゆくのである。

 時が変化をもたらした。少女は縁があって結婚した。しかしどうした理由があったものか、結婚後半年もたたぬうちに戻されて、今度は兄の家へ引き取られた。この兄というのは軍籍にあったので、日清戦争後は小倉《こくら》の師団に転任させられた。少女もまた兄の赴任に随《つ》いて小倉へ行った。
 鶴見は兵役関係で父の郷里の本籍地へ行き、不合格を言い渡されてからもなお滞留していた。それから足掛け三年もぐずぐずしていたが、いよいよ帰京することに決して国許《くにもと》を出発し、途中小倉に立寄った。鶴見はここで久しぶりに往年の少女と遇うことになった。
 この家の兄嫁というのはきさくな性分で、食事のおり、「これが東京でお世話になっていたときには大分面白いことがあったそうですね」といった。そういわれて、突然のことなので、ちょっと面《おも》はゆかったが、かれはその言葉をむしろ冷やかに聞き流してしまった。かれには一旦事が過ぎれば極めて冷淡にものをあしらう性癖がある。根本の執著心は深いけれども思いも寄らぬ冷淡さで過去を離れて現実に処してゆくことが出来た。諦らめでもなく仮装というのでもない。鶴見は自分にそういう性癖があるのを知り抜いていて、時には余りに冷やかすぎると思って悔《くや》むことさえある。
 鶴見はこのたまたまの会見にも、些《いささか》の感情をも動かさずに、それきりに別れてきた。
 一つ思い出すことは、その小倉でその日に雪が降りだして、翌朝起きてみれば、めずらしくも二尺以上積っていたということだけである。

 また時が立った。今度は歳月の間隔が長かった。その間に鶴見は父を亡《うしな》い、その翌年には結婚していた。
 或る日の晩方である
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