くなる。それが病みつきとなって、遂には切っても切れぬ仲となったのである。
縁といい約束といえば、いつも絆《ほだ》されているように想像されるが、その中には自由はある。法悦さえ感ずることがある。そんな予感が文芸に絆された少年の心に媚《こ》びる。未知の境界《きょうがい》がこの少年を招き寄せる。迎えるものがあって迎えられるように思うのである。かれが気がついた時には、最早《もはや》深入りしていた。そして名利の方の欲は一切忘れてしまった。とはいえ、その事は生への執著を一切離れてしまったことにはならない。執著心はかえってますます増益する。文芸道にたずさわることは容易なものでない。そのわけが追々に分明になる。魔性の手が脅威の矛先《ほこさき》を向ける。それが絶間なくかれを苦しめる。その苦悩をも凌《しの》いで、なお法悦を見出そうとして、かれは一生を賭《か》けてしまった。漂泊の魂のためには、涯《はて》しも知らぬ曠野の旅である。それにもかかわらず、かれは少年時の甘い夢を見つづけている。しかもその夢の再現がまたかれを苦しめる。見返すたびごとにその影像が無慈悲と思われるまでに鮮明の度を増す。鶴見にはすべてが今や絶望のように感じられる。「おれの夢は明瞭すぎるほど明瞭な輪廓と人の胸を突き刺す鋭角とをもった形式ばかりのものとなって示される。それも好い。おれはなお自由と法悦とを求めて止まない。探求の苦しい旅はどこまでもつづけて行く。」
鶴見の目の前には幻滅の夢の殻が残されているばかりである。「刻薄《こくはく》の現実はどこまでも刻薄であれよ。おれはそう思って、現実に抗して現実の無意義と無内容とを観じようとすれば、現実はその骨骼《こっかく》ばかりの機構を露呈して、かえっておれの無知を責めてかかる。おれはその背後に虚無を見る。おれにはおれの立場がある。おれにはおれの為すべきことがある。おれは現実から刻薄の毒素を絞り取って、徐《おもむ》ろにそれを苦悩の杯《さかずき》に滴《したた》らしめる。おれは早晩その杯を傾けねばならない。毒液と知りつつそれを飲み乾さねばならない。」
鶴見は目をつぶってじっとしている。息をこらしている。しばらくあってまた目を開ける。その目は外に向けられずに、ひたすら心の奥底を見透しでもするように、目蓋《まぶた》の下で静かに廻転している。「少年時に夢みた自由と法悦――その宝器の隠くされ
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