っといいことよ」
私はお腹の中で一つ一つを勘定しながらそう云いました。
「でもね。こんなものはすぐうれないのでね。……これが四千円、これがまあ八千円、セーブルはさっぱりなんでっせ。印象の色紙、三千円ね。後は全部で八千円。随分ふんぱつでっせ」
私は、床に今掛けた、山水の絵をみます。箱の上においた茶碗をみます。父は黙っております。
「東さん、この壺はあんまりやすい。せめて、この小さいもの全部で一万二三千はほしいわよ」
あれこれ、東さんと云い合っているうちに私も、もうどうだっていいという気持になりました。いくらに売れても同じです。一週間食べのびるか否かなのですから。結局、二万五千円で話がつきました。父も、それでいいと云うのです。東さんは話終ると一服煙管にきざみをいれて、ぷうっと美味しそうに吸いました。きざみ入れのさらさのえんじがいい色です。
「東さんのところへ行くと、ほしいものだらけ。父様、朝鮮箪笥もあったわよ」
「そうかい。焼いてしまったけど、あのうちにあったのもいい色だったね。さみしいことだよ」
「まあまあ旦那さん。元気出しなされ」
東の主人はそう云って明日品物をとりに来ると出て行きました。
叔母がはいって来て、宝くじが全部駄目だったと告げました。
「雪ちゃんに、ホテル約束したのにね、ワンコースを。駄目だった。来月はあたってみせるわ」
つぎだらけのスカートをはいた叔母は、大きな声で笑いながらそう云いました。
「おばさま、毎月毎月買う分、計算したらずいぶんのマイナスでしょう」
「そうなのよ。でもやめられないわ」
二人は又笑いました。
「まだまだ、貧乏と云っても私達はぜいたくかも知れないわ。おばさん、今夜は牛肉よ。宝くじにあたらなかった残念会にしようか」
叔母は、せかせかと茶室の方へゆきました。渡り廊下の戸がパタンといって冷い風がはいって来ました。
「もう、湯たんぽがいるわよ」
私はガラクタ入れの中から湯たんぽを出して来ました。ほこりをはらって水をいれるとそれはジャージャーもって使えないようになっておりました。
その晩、私は自分の部屋にいて、雑誌をよんでおりました。母と叔母とは、隣の部屋で編物をしておりました。二人の会話がきこえて来ます。
「お義姉様。春彦の本代が随分いりますのよ。科学の材料費なんかも。ノートや鉛筆やそんなものも馬鹿になりませんわね」
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