「銀を買ってほしいのですけど」
「買いますよ」
「今、幾らしますの」
「さあ物によって、品は何ですか」
「盃など」
「十八円から二十一、二円のところでしょうな。一匁が」
「そんなにやすいの」
「今さがってますからね、でも毎日ちがいますから、とにかく御損はさせませんよ。品物をみた上で、主人とも相談せにゃなりませんから」
「そうね、とにかく品物を明日持って来ますから、確かな物にちがいないけど」
「お嬢さん、他でもきいてみて下さい。他の云った値が家より高けりゃ、その価にしますし……。主人に内緒ですけど、造幣局へ持って行ってでしたら一番高く売れますよ、我々も結局造幣局へ持って行くんですから、その代り、一週間はかかるでしょうし、大阪へ行く電車賃やなんやかやいれたらわずかのちがいですけどね」
 親切にそう云ってくれます。私は堀川さんの店を出て、二三軒、通りがかりの貴金属屋に銀の値をきいてみました。十五円だと云ったり、二十四円だと云ったり、かなりまちまちでした。銀のことは明日、品物をみせてからにして、よくあたる八卦見だという、そのゴチャゴチャした支那うどんを食べさせたり安物のスタンドバーのあったりする裏通りの角っこに私はやって来ました。他に御客はなく、白髪のおじいさんは何か和とじの本をよんでおります。
「みてほしいんですけど、一体幾ら?」
「百円」
 ぶつっとそう云って、彼は私の顔をみました。その顔は小学校の時の先生によく似ておりました。
「年は、生まれた月日は?」
 私は自分の生年月日を告げます。竹の細い棒を何度もわけたり一しょにしたりして呪文を唱えているのをみながら、始めは冷やかし半分の気持でしたが、だんだん真剣になって来ました。何を予言されるのだろう。五分間位、呪文がつづき、その揚句、又木のドミノのようなもので、裏がえしたりおきかえたりしております。そのドミノの赤い線がみえたりかくれたりして、私の心を冷々させます。
「あんたは……」
「はい」
「結婚してますか」
 私は八卦見のくせにわからないのはいささか滑稽だと思い、笑いながら、首を横にふりました。
「そうでしょう。成程ね」
 しきりに感心したような顔をして、ドミノを眺めております。
「今月中にね、動という字が出てますからね。何かあんた自身、或いはお家に変動があります。それは、幸とも不幸とも云われません。とにかく、その後の
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