したくなる私とは気持の上でも合う筈がなかった。姉はすぐに計算し、計算の上で行動した。私は無鉄砲向う見ずに気分のままで行動した。そしてお互に衝突しながら、衝突した途端に自分をひきさげ、奥までつっこんで行こうとはしなかった。姉もエゴイストであり私もエゴイストであった。
家庭内の不和を私はかの女の教師に告げて、自分の位置をどうすればよいのか相談した。彼女は常識的に親の意見に従うべきだといつも云った。私は腹立しく思ったが、別に彼女と喧嘩はしなかった。
そのうちに、学校で私にとって大きな問題が勃発した。一学期の終り近い倫理の時間であった。教師払底の時で、倫理を教える人は教頭という名目だけの凡そ倫理とかけはなれている音楽の教師であった。私は彼を心から軽蔑していた。というのは音楽をやりながら音楽的な感覚を持たない人であったから。彼はピアノをガンガン鳴らした。まるでタイプライターを打っているようだった。又彼のタクトはメトロノームと寸分の変りなく、拍子だけでその中に感情は全くはいっていなかった。その人が、勤続十何年のために教頭の位置にあり、倫理――公民と呼ぶ時間――を教えるのは全く滑稽であった。
私は彼が黒板に、善悪や意識だとか行動だとかいう文字をかき、それを説明するのをノートにとるのさえ馬鹿げているような気がして、いつも他のことを考えていた。その日もぼんやりしていると、突然、これから二十分間に自己の行為を反省し、善悪を理性で判断し、悪だと思った点を紙に書いて提供せよ。それを倫理の試験の代りにすると云ったらしい。紙がくばられた。私は隣の生徒に何事だと問うた。彼女は彼の云った言葉を忠実に私に伝えた。私は立ち上った。私は立てつづけにべらべらと喋った。私は絶対に嫌だと何度も云ったのだ。生徒はざわついた。彼は渋い顔をした。
「何のためにそんなことをするんですか」
彼は自己反省は大切なことである、と簡単に云った。私は反省は自分だけでやるものだと云い張った。そしてそれを試験がわりにするなどもっての他だと云った。私の言葉に、彼は更に怒号し、命令だと云った。私はどうしても受け入れないとつっぱった。そして最後には、
「失礼ですが、懺悔僧でもないあなたが、四五十人もの生徒の懺悔をききただしてその負担がどんなに大きいかお気附きじゃありませんか。私は自分の行為は自分で処理します。あなたに告白したとこ
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