ーの歌曲のある一つの詩の一節に出て来るんです。ところが、この詩の曲は、レコードには省かれています。(このレコードのことは後に出てくるんです)
小母さん。小母さんと二人で、あの日、喋ったことは、さっきちらと書きました。私の苦しみ、せめ、それを、私は洩らしたのですね。それから家族のこと。生きてはゆけない気持のことを。あの日、あれから、大阪へゆきました。鉄路のほとりに会うために、彼に電話をしました。
――いや、小母さんの家へ行ったのは、その次の日だったかな。少しわからなくなりました。というのは、青白き大佐と、富士正晴氏と一しょに居た記憶もあるようですが――とにかく、鉄路のほとりの居るところがわかり、彼は、八時頃まで仕事があるといいました。唯、会いたいから、会ってほしいと云ったのです。私は、いつもゆくその喫茶店――レコードを鳴らしてくれるところなの――で八時迄まつことにして、それよりおそくなれば、他のところということにしました。私は、紙と封筒とペンを用意してました。鉄路のほとりに手紙をかきました。――真実のことを、感じてほしい。だけど会っても、あなたは感じてくれない。だからもう会わない。本当だということをあきらかにするだろうところの一つの行動を私はとります。私は幸せ。あなたの愛を感じ、あなたを愛する自分の気持も誰にだってほこれるものだから。だけど、唯それを感じてもらえないことは、不幸せかも知れない――というような手紙です。ドビュッシーの海をやってました。私は、青白き大佐に、契約破棄の文章をかきました。それは糊づけしないで、自宅へ帰って、契約書をいれるべく、心得てました。それから、富士正晴氏にかきました。私の原稿二つ、彼の手許にあるのは、発表しないでほしい、ということ。それから、私の友人の令嬢へ、やさしい手紙を。それだけ書き終えた時、喫茶店の主人が、いたずらがき帳をもって来てくれました。何かかいて下さいと。私はホットウイスキーをのんでいたし、多少、私の死と結びつけて考えられたので、いたずら書きをしました。いつもの皿に絵をかく調子で、さらさらと、海の中のと、花鳥の群とを。八時十五分頃、そこを出て、青白き大佐が、九時にまっているという喫茶店へ自動車をとばし、今夜は会いませんという置手紙をして、鉄路のほとりと会うところへ行きました。そこは緑の島の仕事場なのです。然も、私が依頼し
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