四本の、かわつきのとりを食べ、そこから、七十円で帰ったの。メコちゃんのところで、私は、こんな会話を、知らない客といたしました。その客は、三人居て盃一ぱいの酒と、ピース二本くれたんです。
「どっか、近いところで、雪がうんとつもっているところ、知らない?」
「神鍋」
「スキーしにゆくんじゃないの、雪見にゆくの、人の居ないところ」
 私は、そう云いながら、真白につもった雪の中を、ゴウ然とはしる汽車の音を、想像しました。
 一人の男は、簡単な地図をかいてくれました。神鍋の近所なんです。だけど私は、その地方に魅力がなかったもんで、びわ湖の附近に、静かな雪のところがないかと云いました。別の一人が、
「タケオがいいよ」
 タケオとは武生とかくんだそうで、米原の先、北陸線だそうです。私は其処へ行こうときめたんです。
 風邪をひいていて、のどがからからします。叔父達がきて、八畳の間で、麻雀をしてます。私は、部屋で、いろりに火をたき、湯たんぽを足にいれて、今、書いているんです。
 小母さん、一月四日、再会を約束しましたね。ごめんなさい。今日はいい日でした。ちっちゃい御弟子さんが、ソナチネなどひいている間、私は昔を思い出しました。やっぱりソナチネをやったのですもの。みんな知ってる曲ばかり。でも私の方が、ちょいとばかりあの頃、うまかったようです。さて最後に、私は、アルベニスをひきました。つい先達ての日、大阪の笹屋で、楽譜をもとめたばかりなので練習不足だし、弾きなれないピアノで、ソフトペダルが、とてもききすぎて、戸惑っちまい、不出来だったと思います。三曲とも、とても好きな曲です。タンゴには、少し思い出などあったりしてね。さてその後、御馳走をいただき、お遊びをして。でも、私は、まるで、他のことばかりを思いつめてました。
 小母さん。この前にうかがった時、実は、もうお目にかからないつもりだったのです。門のところで握手して下さいましたね。
 うんと苦しんで、その苦しみが、あなたを生かすでしょう。小母さんの御言葉を、その時、二人でガスストーヴをはさみ、煙草をすってましたっけ。そのお言葉を記憶してます。私は、二十二日、(その日の三日位後ですか)に、黒部へ行って自殺しようと決めてたのです。ああ、火がとてもよくおこってます。小母さん。小母さんの御言葉は、むごい程よ。苦しむのは、私もうまっぴらなんです。苦し
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