――阿難。私は恋をしている阿難を愛しているのよ。でも、でも、みじめになっちゃいや。みじめになる位なら……――
 ――いえ、出来ない。阿難は走ってゆく。どこまでも――

     六

 カレワラに、アネモネが一ぱい活き活きといけられてあった。南原杉子が、花屋におくりとどけさせたものである。
「おまえに花が贈られるとはね。どうも、おくった人の感覚を疑いたくなるよ」
「云ったわね、一度、会わせてあげるわ」
「素晴しい人だというけど、女なんてものは大方どれもおなじだよ」
「おんなじだったら、いい加減に浮気もあきたでしょう」
「大方同じだが、大方でないところを発見するのが面白いんだね、時にお前の方はどうだい?」
「ええ、あたしは相変らずですよ。あなたをのぞいた他の男には大いに興味がありますからね」
「まあせいぜいやったがいいね。だが、外泊が三日もつづいたとなりゃ、いくら、妻の浮気公認の亭主だと云っても、亭主としての義務上、一応心配してみるね、どこかで怪我か病気でもしてやしないかと思ってね。心中てなことはないと思うがね。やっぱり多少はお前とつながりがあるんだからね。ずるずるひもをたぐられて、俺
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