った。臂が落ちた。黄な衣服を着た者はそこで逃げていった。白い衣服を着た者が汪に飛びかかって来た。汪は刀でその顱《あたま》を切った。顱は水の中に堕ちて音がした。怪しい声は大声を立てながら水の中へ飛び込んでしまった。
 そこで船頭と相談して舟をやろうとしていると、やがて巨きな喙《くちばし》が水の面に出て来た。それは深い闊《ひろ》い井戸のようなものであった。それと共に四方の湖の水が奔《はし》るように流れだして、ごうごうという響がおこったが、俄《にわか》にそれが噴きあがるように湧きたって大きな浪となり、浪頭は空の星にとどきそうに見えた。湖の中にいたたくさんの舟は、簸《み》であおられるように漂わされた。湖の上にいる人達はひどく恐れた。
 舟の上には石鼓《せきこ》が二つあった。皆百|斤《きん》の重さのあるものであった。汪はその一つを持って水の中へ投げた。石鼓は水を打って雷のように鳴った。と、浪がだんだんとなくなって来た。汪はまた残りの一つを投げた。それで風も浪もないでしまった。汪はその時父親を鬼《ゆうれい》ではないかと疑った。叟はいった。
「わしはまだ死んではいない。わしと一緒に溺れた者は十九人あ
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