に柳をそのままにして舟の底へかくれた。
 と、人が来て柳の頸筋《くびすじ》をつかんで曳《ひ》き立てようとした。柳はひどく酔っているので持ちあがらなかった。そこで手を放すとそのまままたぐったりとなって眠ってしまった。しばらくしてその柳の耳に鼓《つづみ》や笙の音が聞えて来た。柳はすこし眼が醒めかけたのであった。蘭麝《らんじゃ》の香が四辺《あたり》に漂っているのも感じられた。柳はそっと窺《のぞ》いてみた。舟の中は綺麗な女ばかりで埋まっていた。柳は心のうちでただごとでないことを知った。柳は目をつむったように見せかけていた。しばらくして、
「織成《しょくせい》、織成。」
 と口移しにいう声がした。すると一人の侍女が来て、柳の頬《ほお》の近くに立った。それは翠《みどり》の襪《くつたび》に紫の色絹を着て、細い指のような履《くつ》を穿《は》いていた。柳はひどく気に入ったので、そっと口を持っていってその襪を齧《か》んだ。しばらくして女は他の方にいこうとした。柳が襪を齧んでいたためによろよろとして倒れた。一段高い所に坐っている者がその理由《わけ》を訊《き》いた。
「その方は、何故に倒れたのか。」
 女はそ
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