物を売ったり、飲物を沽《う》ったりする所でないから、手すくなでゆきとどかん。ただ婆さんと、年のいかない女《むすめ》があるが、ちょうど眠ったところじゃ。残りの肴はあるが、煮たきに困るので何もできない。かまわなければ、それをあげようか。」
 老人はそういってから入っていった。そして、間もなく足の短い牀《しょうぎ》をもって来て下に置き、山をそれに坐らしたが、また入っていって一つの足の短い几《つくえ》を持って来た。それはいかにも急がしそうにいったりきたりするのであった。そのさまを見ては山もじっとしていられないので、曳《ひ》きとめて休んでもらった。
「どうか、どうか、おかまいくださらんように。どうかお休みください。」
 暫くすると一人の女が出て来て仕度をしてくれた。老人は女の方をちょっと見ていった。
「これが家の阿繊《あせん》だ。起きて来たのか。」
 見ると年は十六、七で、綺麗でほっそりしていて、それで愛嬌があった。山には年のいかない弟があってまだ結婚していないので、こういうのをもらいたいものだと思った。そこで老人の故郷や属籍《ぞくせき》を訊《き》いてみた。老人はいった。
「わしは、士虚《しきょ
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