りであった。昼夜|績《つむ》いだり織《お》ったりして休まなかった。それがために上の者も下の者も皆阿繊を可愛がった。阿繊は三郎に頼んでいった。
「兄さんにおっしゃってください。また西の道を通ることがあっても、私達母子のことを口に出さないようにって。」
三、四年して奚《けい》家はますます富んだ。三郎は学校に入った。
ある日、山は商用で旅行して、古《こ》の家の隣に宿をとった。そして宿の主人と話していて、ふと雨にへだてられて定宿にゆけずに古老人に世話になったことを話した。宿の主人は、
「そりゃお客さん、何かの間違いでしょう。東隣は私の兄の別宅で、三年ほど前に貸してあった者が、時とすると怪しいことがあったので、引移して空屋《あきや》になっておる。どうして爺さんや婆さんがおるものかね。」
それを聞いて山はひどく不思議に思った。しかしまだそれほど深くは信じなかった。主人はまたいった。
「あの家は、せんに十年空いてて、よう入る者がなかったが、ある日、家の後の牆が傾いたもんだから、兄がいってみると、大きな猫のような鼠がはさまれてて、尻尾は牆の内でまだ動いていたので、急いで帰って来て、皆を呼んでいってみると、もういなかったのだ。皆がそれが怪しいことをしてたろうといったのだよ。その後十日あまりして、また入っていってためしたが、ひっそりしてもう何もなかったよ。それからまた一年あまりしてから、やっと人がいるようになったのだよ。」
山はますます不思議に思って、家へ帰って両親にそっと話し、どうも阿繊は人であるまいと思って、三郎のために心配したが、三郎は初めとすこしもかわらずに阿繊を愛した。
暫《しばら》くして家の中の人の心がちぐはぐになって阿繊をうたがいだした。阿繊はかすかにそれを察して、夜、三郎に話した。
「私は、あなたの所へまいりましてから、数年になりますが、まだ一度だって悪いことをしたことがありませんのに、この頃は人並に待遇せられません。どうか私に離縁状をください。そして、あなたは自分で良い奥さんをおもらいなさい。」
そういって阿繊は泣いた。三郎はいった。
「私の気持ちは、お前がよく知ってくれているはずだ。お前が家へ来てくれてから、家は日増に繁昌して来た。皆これはお前が福を持って来てくれたものだといって喜んでいる。だれがお前のことを悪くいうものか。」
阿繊はいった。
「あなた
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