すすめました。
「いけません。いけません。私は早くおかあさんにあわなければなりません。すぐにゆきます。」
マルコの強い心に動かされて、宿屋の主人は一人の男をわざわざ町はずれの森まで送ってよこしました。マルコは大変よろこんで教えてもらった道を急ぎました。道の両がわにはこんもりとした並木が立ちならんでいました。マルコは足のいたいことも忘れて歩きました。
その夜母親は大そう苦しんでもう息も切れ切れに、「お医者さまを呼んで下さい。助けて下さい。わたしはもう死にます。」
といいました。
主人や奥さんや女中たちは女の手をとってなぐさめました。
もう夜中でありました。マルコはもう歩む力もなくなっていく度となくころびました、けれどもマルコは「おかあさんにあえるのだ。」という心が胸にわいてきて足のいたいことも忘れてしまいました。
やがて東の空がしらじらとあけてきて、銀のような星も次第に消えてゆきました。
朝の八時になりました。ツークーマンのお医者さんは若い一人の助手をつれて病人の家へ来ました。そしてしきりに手術をうけるようにすすめました。メキネズ夫婦もそれをすすめました。けれどもそれは無駄でした。女はどうしても手術をうける気はありませんでした。手術をうけないうちに死んでゆくのだとあきらめているからでした。医者はそれでもあきらめずにもう一度いってみました。
けれども女は、
「わたしはこのまま安らかに死んでゆきとうございます。」
といいました、そしてまた消えてゆくような声で、
「奥さま、わたし[#「わたし」は底本では「わたく」]の荷物と、この少しばかりのお金を家の者に送ってやってください、私はこれで死んでゆきます。どうぞ私の家へ手紙も出して下さい。わたしは子供を忘れることが出来ません。小さい子のマルコはどうしているでしょう、ああマルコが……」
といいました。
その時、主人もいませんでした。奥さんはあわただしくかけてゆきました。しばらくすると医者はよろこばしい顔をしてはいってきました。主人も奥さんもはいってきました。[#「。」は底本では欠落]そして病人に、いいました。
「ジョセハ、うれしいことをきかせてあげるよ。」
「おどろいてはいけません。」
女はじっとその声をきいていました。
奥さんは
「お前がよろこぶことですよ、お前の大そう可愛がっている子にあうのですよ。」
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