る。それはもう子どもは子どもでも、わたしは自分白身の主人であった。
 いよいよ流浪《るろう》の旅を始めるまえに、わたしはこの二年のあいだ父親のように優《やさ》しくしてくれた人に会いたいと思った。カトリーヌおばさんは、みんながかれに「さようなら」を言いに行くときに、わたしをいっしょに連《つ》れて行くことを好《この》まなかったが、わたしはせめて一人になったいまでは、行ってかれに会うことができるし、会わなければならないと思った。借金《しゃっきん》のために刑務所《けいむしょ》にはいったことはなくても、その話をこのごろしじゅうのように聞かされていたのでその場所ははっきりわかっていた。わたしはよく知っているラ・マドレーヌ寺道《じみち》をたどって行った。カトリーヌおばさんも、子どもたちも、お父さんに会えたのだから、わたしもきっと会うことが許《ゆる》されるであろう。わたしはお父さんの子どもも同様であったし、お父さんもわたしをかわいがっていた。
 でも思い切って刑務所《けいむしょ》の中へはいって行くのがちょっとちゅうちょされた。だれかがわたしをじっと監視《かんし》しているように思われた。もう、一度そのド
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