いもまったくしびれきったようになっていたが、このときはもうかれらの話を聞いてわかるだけに覚《さ》めていたのであった。
ああ、ヴィタリスは死んでしまったのである。
この話をしてくれたのは、ねずみ色の背広《せびろ》を着た人であった。この人の話をしているあいだ、びっくりした目をして、じつとわたしを見つめていた女の子は、ヴィタリスが死んだと聞いて、わたしがいかにもがっかりしたふうをしたのを見つけると、そこを立って父のそばへ行き、片手《かたて》を父のうでにかけ、片手でわたしのほうを指さしながらなにか話をした。話といっても、ふつうのことばでなく、ただ優《やさ》しい、しおらしい嘆息《たんそく》の声のようなものであった。
それにかの女の身ぶりと目つきとは、べつにことばの助けを借《か》りる必要《ひつよう》のないほどじゅうぶんにものを言って、そこによけい自然《しぜん》な情愛《じょうあい》がふくまれているようであった。
アーサと別《わか》れてこのかた、わたしはつい一度もこんなに取りすがりたいような、親切のこもった、ことばに言えない情味《じょうみ》を感じたことはなかった。それはちょうど、バルブレンのお
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