しょうこ》には、しばらくたつとかれは大きなはちに牛乳《ぎゅうにゅう》を入れて持って来た。わたしたちの雌牛《めうし》の乳《ちち》である。しかもそれだけではなかった。かれは白パンの大きな切れと冷《つめ》たい子牛の肉を持って来て、これは検事《けんじ》さんからの届《とど》け物《もの》だと言った。
どうして、こうなると牢屋《ろうや》もそんなに悪い所ではなかった。ただでごちそうを食べさせて、とめてくれるのだもの。
バルブレンのおっかあ
そのあくる朝早く、検事《けんじ》はあのわれわれのお友だちの獣医《じゅうい》君といっしょにやって来た。獣医君はなんでもわたしたちが放免《ほうめん》になるのを見届《みとど》けたいといって、わざわざやって来てくれたのであった。
いよいよわたしたちが出て行くときに、検事《けんじ》は一|枚《まい》、お役所の印《いん》をおした紙をくれた。
「そら、これをあげるからね」とかれは言った。「どうも手形《てがた》も持たないでいなかを歩くなんというのはとんだばかな子どもたちだ。わたしは市長にたのんで、おまえたちにこの旅行券《りょこうけん》を出してもらった。なんでもこれからは、これだけ見せればおまえたちは保護《ほご》してもらえる。ではごきげんよう、子どもたち」
わたしはかれと握手《あくしゅ》した。それから獣医君《じゅういくん》とも握手した。
わたしたちはみじめなざまで村へはいったが、今度はいばって出て行くのであった。雌牛《めうし》のつなを引きながら、首を高く上げて歩いて、戸口に立ってわたしたちを見ている村のやつらを肩《かた》の上から見てやった。
わたしは雌牛をつかれさせたくなかったが、きょうはどうしてもシャヴァノンまで急いで行かなければならないので、わたしたちはせかせか歩き出した。もう晩《ばん》がた近く、わたしたちはむかしのうちに着きかけていた。
マチアはどら焼《や》きを食べたことがなかった。そこでわたしは着いたらさっそくこしらえて食べさせるやくそくをして、とちゅうでバターを一ポンドと麦粉《むぎこ》を二ポンドに、卵《たまご》を十二買いこんだ。
わたしたちはいよいよ、初《はじ》めてヴィタリス親方が、わたしを休ませてくれた場所に着いたので、わたしはあのときこれが見納《みおさ》めだと思ったその場所から、バルブレンのおっかあのうちをもう一度見下ろすことができた。
「つなを持っていてくれたまえ」とわたしはマチアに言った。
一とびでわたしはこしかけの上に乗った。谷の中の景色《けしき》にはなにも変《か》わったものはなかった。それはそっくり同じに見えた。けむりまで同じようにえんとつから上がっていた。そのけむりがわたしたちのほうへなびいて来ると、かしの葉のにおいがすっと鼻をかすめたように思われた。
わたしはこしかけからとび下りて、マチアをだきしめた。カピがわたしにとびついて来た。わたしは二人をいっしょにして、固《かた》く固くしめつけた。
「さあ、こうなれば少しでも早く行こうよ」とわたしはさけんだ。
「情《なさ》けないことだなあ」とマチアがため息をついた。「このけものさえ音楽が好《す》きなら、どんなにもどうどうと、凱旋《がいせん》の曲を奏《そう》しながらはいって行けるのだけれど」
わたしたちが往来《おうらい》の曲がり角まで行くと、バルブレンのおっかあが小屋から出て来て、村の往来の方角へ向かって行くのを見つけた。どうしよう。わたしたちはかの女にいきなり不意討《ふいう》ちを食わせるくわだてをしていた。わたしたちはなにかほかのしかたを考えなければならなくなった。ドアにはいつでもかけ金だけかかっていることを知っていたので、わたしたちは雌牛《めうし》を牛小屋につないで、ずんずんうちの中にはいって行くことにした。小屋の中はまきがいっぱいはいっていた。そこでわたしたちはそれをすみに積《つ》み上げて、ルセットの代わりに連《つ》れて来た雌牛を入れた。
それからわたしたちがうちの中にはいると、わたしはマチアに言った。
「じゃあ、それではぼくはこの炉《ろ》ばたにこしをかけよう。するとはいって来てぼくのここにいるのを見つけるからね。門を開けるときりきりという音がするから、そのとききみはカピといっしょにかくれたまえ」
わたしはむかしいつも冬の晩《ばん》になるとすわったそのいすの上にかけた。わたしはできるだけ小さく見えるように、背中《せなか》を丸《まる》くしていた。こうして少しでもあのバルブレンのおっかあのかわいいルミに近い様子を作ろうとした。わたしのすわっている所から門はよく見えた。わたしは門のほうに気を取られて見ていた。
なにも変《か》わってはいなかった。なにかが同じ場所にあった。わたしのこわした窓《まど》ガラスにはまだ小さな紙が
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