へや》にはいった。
くぎを打ったくつなんぞを、どうしてこんな気味の悪い所で売っているだろう。
けれども老人《ろうじん》にはわかっていた。それでまもなくわたしは、これまでの木ぐつの十倍《ばい》も重たい、くぎを打ったくつをはくことになった。うれしいな。
老人の情《なさ》けはそれだけではなかった。かれはわたしに水色ビロードの上着と、毛織《けお》りのズボンと、フェルトぼうしまで買ってくれた。かれのやくそくしただけの品は残《のこ》らずそろった。
まあ、麻《あさ》の着物のほか着たことのなかったわたしにとって、ビロードの服のめずらしかったこと。それにくつは。ぼうしは。わたしはたしかに世界じゅうでいちばん幸福な、いちばん気前のいい大金持ちであった。ほんとうにこの老人《ろうじん》は世界じゅうでいちばんいい人でいちばん情《なさ》け深い人だと思われた。
もっともそのビロードは油じみていたし、毛織《けお》りのズボンはかなり破《やぶ》れていた。それにフェルトぼうしのフェルトもしたたか雨によごれて、もとの色がなんであったかわからないくらいであった。けれどもわたしはむやみにうれしくって、品物のよしあしなど
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