りくるんでくれた。
 ときどきわたしは遊《あそ》び仲間《なかま》とけんかをする。そういうとき、この女の人はじゅうぶんわたしの言い分を聞いてくれて、たいていの場合、優《やさ》しいことばでなぐさめてくれるか、わたしの肩《かた》をもってくれた。
 それやこれやで、わたしに物を言う調子、わたしを見る目つき、あまやかしてくれて、しかるにしても優《やさ》しくしかる様子から見て、この女の人はほんとうの母親にちがいないと思っていた。
 ところでそれがひょんな事情《じじょう》から、この女の人が、じつは養《やしな》い親《おや》でしかなかったということがわかったのだ。
 わたしの村、もっと正しく言えばわたしの育てられた村は――というのが、わたしには父親や母親という者がないと同様に、自分の生まれた村というものがなかったのだから――で、とにかくわたしが子どもの時代を過《す》ごした村は、シャヴァノンという村で、それはフランスの中部地方でもいちばんびんぼうな村の一つであった。
 なにしろ土地がいたってやせていて、どうにもしようのない場所であった。どこを歩いてみても、すきくわのはいった田畑というものは少なくて、見わた
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