《やさい》をいっしょにした味がするのであった。わたしはそっとこの野菜をじょうずに作って、おっかあをおどろかそうと思っていた。ただの花だと思わせておいて、そっと実のなったところを引きぬいて、ないしょで料理《りょうり》をして、いつも同じようなじゃがいもにあきあきしているおっかあに食べさせて、『まあルミ、おまえはなんて器用《きよう》な子だろう』と感心させてやろう。
 こんなことを思い思いこのときも、まだ芽《め》が出ないかと思って、種《たね》のまいてある地べたに鼻をくっつけて調べていた。ふと気がつくとバルブレンがかんしゃく声で呼《よ》びたてているので、びっくりしてうちへはいった。まあどうだろう。おどろいたことには、炉《ろ》の前にヴィタリス老人《ろうじん》と犬たちが立っているではないか。
 すぐとわたしはバルブレンがわたしをどうするつもりだということがわかった。老人がやはりわたしを連《つ》れて行くのだ。それをおっかあがじゃましないように村へ出してやったのだ。
 もうバルブレンになにを言ってみてもむだだということがわかっているから、わたしはすぐと老人《ろうじん》のほうへかけ寄《よ》った。
「ああ、ぼくを連《つ》れて行かないでください。後生《ごしょう》ですから、連れて行かないでください」とわたしはしくしく泣《な》きだした。
 すると老人《ろうじん》は優《やさ》しい声で言った。「なにさ、ぼうや、わたしといればつらいことはないよ。わたしは子どもをぶちはしない。仲間《なかま》には犬もいる。わたしと行くのがなぜ悲しい」
「おっかあが……」
「どうせきさまはここには置《お》けないのだ」とバルブレンはあらあらしく言って、耳を引《ひ》っ張《ぱ》った。
「このだんなについて行くか、孤児院《こじいん》へ行くか、どちらでもいいほうにしろ」
「いやだいやだ、おっかあ、おっかあ」
「やい、それだとおれはどうするか見ろ」とバルブレンがさけんだ。「思うさまひっぱたいて、このうちから追い出してくれるぞ」
「この子は母親に別《わか》れるのを悲しがっているのだ。それをぶつものではない。優《やさ》しい心だ。いいことだ」
「おまえさんがいたわると、よけいほえやがる」
「まあ、話を決めよう」
 そう言いながら、老人《ろうじん》は五フランの金貨《きんか》を八|枚《まい》テーブルの上にのせた。バルブレンはそれをさらいこむよ
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