ンは続《つづ》けた。
「うでも同様だ。――まあこれでもいいが、苦しいことや、つらいことにはたえられそうもない」
「なに、たえられない。ふん、手でさわって調べてみるがいい」
 老人《ろうじん》はやせこけた手で、わたしの足にさわってみながら、頭をふったり、顔をしかめたりした。
 このまえ、ばくろうが来たときも、こんなふうであったことを、わたしは見て知っていた。その男もやはり牛のからだを手でさわったりつねったりしてみて、頭をふった。この牛はろくでもない牛だ、とても売り物にはならない、などと言ったが、でも牛を買って連《つ》れて行った。
 この老人《ろうじん》もたぶんわたしを買って連れて行くだろう。ああバルブレンのおっかあ。バルブレンのおっかあ。
 不幸にもここにはおっかあはいなかった。だれもわたしの味方になってくれる者がなかった。
 わたしが思い切った子なら、なあにきのうはバルブレンも、わたしを弱い子で、手足がか細くて役に立たぬと非難《ひなん》したのではないかと言ってやるところであった。でもそんなことを言ったら、どなりつけられて、げんこをいただくに決まっているから、わたしはなにも言わなかった。
「まあつまり当たり前の子どもさね。それはそうだが、やはり町の子だよ。百姓《ひゃくしょう》仕事にはたしかに向いてはいないようだ。試《ため》しに畑をやらしてごらん、どれほど続《つづ》くかさ」
「十年は続くよ」
「なあにひと月も続《つづ》くものか」
「まあ、このとおりだ。よく見てくれ」
 わたしは食卓《しょくたく》のはしの、ちょうどバルブレンと老人《ろうじん》の間にすわっていたものだから、あっちへつかれ、こっちへおされて、いいようにこづき回された。
「さあ、まずこれだけの子どもとして」と老人《ろうじん》は最後《さいご》に言った。「つまりわたしが引き受けることにしよう。もちろん買い切るのではない、ただ借《か》りるのだ。その借《か》り賃《ちん》に年に二十フラン出すことにしよう」
「たった二十フラン」
「どうして高すぎると思うよ。それも前ばらいにするからね。ほんとうの金貨《きんか》を四|枚《まい》にぎったうえに、やっかいばらいができるのだからね」と老人《ろうじん》は言った。
「だがこの子をうちに置《お》けば、孤児院《こじいん》から毎月十フランずつくれるからな」
「まあくれてもせいぜい七フランか十
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