バルブレンと居酒屋《いざかや》の亭主《ていしゅ》は低《ひく》い声でこそこそ話をしていた。わたしのことを話しているのだということがわかった。
バルブレンはわたしをこれから村長のうちへ連《つ》れて行って、村長から孤児院《こじいん》に向かって、わたしをうちへ置《お》く代わりに養育料《よういくりょう》が請求《せいきゅう》してもらうつもりだと言った。
これだけを、やっとあの気のどくなバルブレンのおっかあが夫《おっと》に説《と》いて承諾《しょうだく》させたのであった。けれどわたしは、そうしてバルブレンがいくらかでも金がもらえれば、もうなにも心配することはないと思っていた。
その老人《ろうじん》はいつかすっかりわきで聞いていたとみえて、いきなりわたしのほうに指さしして、耳立つほどの外国なまりでバルブレンに話しかけた。
「その子どもがおまえさんのやっかい者なのかね」
「そうだよ」
「それでおまえさんは孤児院《こじいん》が養育料《よういくりょう》をしはらうと思っているのかね」
「そうとも。この子は両親がなくって、そのためにおれはずいぶん金を使わされた。お上《かみ》からいくらでもはらってもらうのは当たり前だ」
「それはそうでないとは言わない。だが、物は正しいからといってきっとそれが通るものとはかぎらない」
「それはそうさ」
「それそのとおり。だからおまえさんが望《のぞ》んでおいでのものも、すらすらと手にはいろうとはわたしには思えないのだ」
「じゃあ孤児院《こじいん》へやってしまうだけだ。こちらで養《やしな》いたくないものを、なんでも養えという法律《ほうりつ》はないのだ」
「でもおまえさんははじめにあの子を養いますといって引き受けたのだから、そのやくそくは守らなければならない」
「ふん、おれはこの子を養《やしな》いたくないのだ。だからどのみちどこへでもやっかいばらいをするつもりでいる」
「さあ、そこで話だが、やっかいばらいをするにも、手近なしかたがあると思う」老人《ろうじん》はしばらく考えて、「おまけに少しは金にもなるしかたがある」と言った。
「そのしかたを教えてくれれば、おれは一ぱい買うよ」
「じゃあさっそく一ぱい買うさ。もう相談《そうだん》は決まったから」
「だいじょうぶかえ」
「だいじょうぶよ」
老人《ろうじん》は立ち上がって、バルブレンの向こうに席《せき》をしめた。ふしぎ
前へ
次へ
全160ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング