っておれの人が変わったかしれないが、そこはおれを半殺《はんごろ》しにもした。おれはもう働《はたら》くことはできない。もう金はない。牛は売ってしまった。おれたちの口をぬらすことさえおぼつかないのに、おたがいの子でもないがきを養《やしな》うことができるか」
「あの子はわたしの子だよ」
「あいつはおれの子でもないが、きさまの子でもないぞ。それにぜんたい百姓《ひゃくしょう》の子どもじゃあない。びんぼう人の子どもじゃあない。きゃしゃ[#「きゃしゃ」に傍点]すぎて物もろくに食えないし、手足もあれじゃあ働《はたら》けない」
「あの子は村でいちばん器量《きりょう》よしの子どもだよ」
「器量がよくないとは言いやしない。だがじょうぶな子ではないと言うのだ。あんなひょろひょろした肩《かた》をしたこぞうが労働者《ろうどうしゃ》になれると思うか。ありゃあ町の子どもだ。町の子どもを置《お》く席《せき》はないのだ」
「いいえ、あの子はいい子ですよ。りこうで、物がわかって、それで優《やさ》しいのだから、あの子はわたしたちのために働《はたら》いてくれますよ」
「だが、さし当たりは、おれたちがあいつのために働いてやらなければならない。それはまっぴらだ」
「もしかあの子のふた親が引き取りに来たらどうします」
「あいつのふた親だと。いったいあいつにはふた親があったのか。あればいままでに訪《たず》ねて来そうなものだ。あいつのふた親が訪ねて来て、これまでの養育料《よういくりょう》をはらって行くなどと考えたのが、ずいぶんばかげきっていた。気ちがいじみていた。あの子がレースのへりつきのやわらかい産着《うぶき》を着ていたからといって、ふた親があいつを訪ねに来ると思うことができるか。それに、もう死んでいるのだ。きっと」
「いいや、そんなことはない。いつか訪《たず》ねて来るかもしれない……」
「女というやつはなかなか強情《ごうじょう》なものだなあ」
「でも訪ねて来たら」
「ふん、そうなりゃ孤児院《こじいん》へ差《さ》し向けてやる。だがもう話はたくさんだ。おれはあしたは村長さんの所へあいつを連《つ》れて行って相談《そうだん》する。今夜はこれからフランスアの所へ行って来る。一時間ばかりしたら帰って来るからな」
そのあいだにわたしはさっそく寝台《ねだい》の上で起き上がって、おっかあを呼《よ》んだ。
「ねえ、おっかあ」
か
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