「これは、きっと本よ。」
すると、アアミンガアドは
「あなたのパパも、お誕生日に本を下さるの? 私のパパとちっとも違わないのね。そんなもの開けるのおよしなさいよ。」
「でも、私は本が大好きなのよ。」
『最後の人形』は実に見事なものでした。少女達はそれを見ると、声をあげ、息もつまるほど喜びました。
「ロッティと大してちがわないくらいね。」
いわれてロッティは手を叩き、笑いこけながら踊り廻りました。
「まるでお芝居にでも行くように盛装しているのね。」と、ラヴィニアまでいいました。「外套には貂の毛皮がついているわ。」
「あら、オペラ・グラスまで持っててよ。」とアアミンガアドは前へ出てきました。
「トランクもあるわ。開けてみましょうよ。」
セエラは床に坐って、トランクの鍵を外しました。懸子《かけご》が一つはずされるごとに、いろいろの珍しいものが出てきました。たとえばレエスの衿飾《えりかざり》や、絹の靴下、それから首飾や、ペルシャ頭巾の入った宝石函、長い海獺《らっこ》のマッフや手套、舞踏服、散歩服、訪問服、帽子や、お茶時の服や、扇などが、あとからあとからと出てくるのでした。
セエラは無心にほほえんでいる人形に、大型の黒天鵞絨《くろびろうど》の帽子をかぶせてやりながら、こういいました。
「ことによると、このお人形には私達のいっていることが解るのかもしれないわね。皆さんにほめられて、得意になっているのかもしれないわね。」
すると、ラヴィニアは大人ぶっていいました。
「あなたは、いつもありもせぬことばかり考えているのね。」
「そりゃアそうよ。私空想ほど面白いものはないと思うわ。空想はまるで妖精のようなものよ。何かを一生懸命に空想していると、ほんとうにその通りになってくるような気がするものよ。」
「あなたは何でも持っているから、何を空想しようと御勝手よ。でも、万一あなたが乞食になって屋根裏に住むようになるとしたら、それでもあなたは、空想したり、つもり[#「つもり」に傍点]になったりしていられるでしょうかね。」
「私きっと出来ると思うわ。乞食だって空想したり、つもり[#「つもり」に傍点]になったり出来ないことはないと思うわ。でも、辛いことは、辛いでしょうねえ。」
そのとたんに、アメリア嬢が入って来ました。セエラはあとで思い返して、ほんとうに不思議なとたん[#「とたん」に傍点]だったとよく思いました。
「セエラさん、あなたのお父様の代理人のバアロウさんがいらしって、ミンチン先生とお二人きりで御相談なさらねばならないことがあるそうですから、あなたがたは客間に行って、御馳走を食べてらっしゃい。その間に姉は、この教室でバアロウさんとお話を済ますでしょうから。」
御馳走と聞いて、皆は眼を光らせました。アメリア嬢は皆を並ばせ、セエラを先頭に立てて、客間の方へ出て行きました。あとには、あの『最後の人形』だけが、夥《おびただ》しい衣裳とともに教室に残されていました。
ベッキイだけは、御馳走をいただくことも出来ないと思いましたので、悪いこととは知りながら、ちょっとあとに残って、美しい人形や、衣裳を眺め廻しておりました。ちょうどベッキイがそっとマフを摘み上げ、それから外套を手に取って見ている時でした。ベッキイはミンチン女史の声が、戸のすぐ外にするのを聞き、震え上って、テエブルの下に身を隠しました。
ミンチン女史は、骨張った体つきの、小柄な紳士を伴れて入ってきました。紳士は何か落ちつかない風でした。ミンチン先生も確かに落ちついていたとはいえません。彼女はいらいらした顔つきで、この小柄な紳士を見つめました。
「バアロウさん、どうかお掛け下さい。」
バアロウ氏は、すぐには腰を下しませんでした。氏は、そこらに散らばっている人形や、人形の小道具に眼を惹かれているようでした。彼は眼鏡をかけ直し、何か咎めだてるように、それらのものを見詰めました。『最後の人形』は、そんなことは、一向無頓着に、ただ真直《まっすぐ》に立って、彼を見返しているばかりでした。
「千円はするだろうな。皆高価な材料で出来ているし、しかもパリイ製だからな。あの若僧は、めちゃくちゃに金を使っていたとみえるな。」
ミンチン女史はむかむかとしました。バアロウ氏は、いくら代理人でも、クルウ大尉のすることに、さし出がましいことをいう権利はないはずです。ミンチン女史は、セエラとセエラの学校のために、惜しげなくお金を出してくれる、大事なクルウ大尉のことを、悪くいわれたくなかったのでした。
「バアロウさん、失礼ですが、どうして、そんなことを仰しゃるのですか。」
「十一になる子供の誕生祝いに、こんなものを贈るなんて、まったく気違いじみているじゃアありませんか。」
「しかし、クルウ大尉は財産家でいらっしゃるじ
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