キイも真顔でいいました。
「今度は何をしましょう。じっと考えて待っていると、何か思いつくものだわ。魔法の神様がそれを教えてくれるのだわ。」
セエラのよくする空想の一つは、家《うち》のそとでいろいろの思いつきが呼び出されるのを待っているというのでした。セエラがじっと立って何を待ち設けているのを、ベッキイはよく見ました。セエラはいつものようにしばらくじっと立っていましたが、やがてまたいつものように、明るい笑顔になりました。
「そら来た。私、何をすればいいか判ったわ。私が宮様《プリンセス》時代に持っていた、あの古鞄《ふるかばん》をあけてみましょう。」
鞄の隅には小さな箱があり、その中に小さな手巾《ハンケチ》が一|打《ダース》入っていました。セエラはそれを持っていそいそとテエブルの方に走って行き、レエスの縁がそり返るように工夫して、赤いテエブル掛の上に並べました。並べる間も、彼女は何か魔法に動かされているようでした。
「そこにお皿があるの。黄金《こがね》のお皿よ。それから、このナプキンには手のこんだ刺繍《ししゅう》がしてある。スペインの尼さんが尼寺の中でした刺繍なのよ。ほら、目に見えて来るでしょう。」
セエラはまた鞄の中から、古い夏帽子を見附け出し、飾《かざり》の花を引きはがして、テエブルの上に飾りました。
「いい匂がするでしょう。」
セエラは夢の中の人のように、幸福そうな微笑《ほほえみ》をたたえながら、石鹸皿を雪花石膏《アラバスタア》の水盤《すいばん》に見たてて、薔薇の花を盛りました。それから毛糸を包んだ紅白の薄紙で、お皿を折り、残った紙と花とは、蝋燭台を飾るのに用いました。セエラは一歩退いて、飾られたテエブルを眺めました。そこにあるのは、赤い肩掛をかけた古テエブルと、鞄から出した塵屑《ごみくず》とだけでしたが、セエラは魔法の力で、奇蹟が行われたのを見るのでした。ベッキイまで、そこらを見廻していうのでした。
「あの、これが――これが、あのバスティユ?――何かに変ってしまったの?」
「そうですとも。饗宴場《きょうえんじょう》に変ったのよ。」
その時戸が開いて、アアミンガアドがよろよろと入ってきました。彼女は肌寒い暗闇の中から、すっかり飾られた部屋に入って来ると、思わず声をあげました。
「セエラさん、あなたみたいに何でも上手な方は見たことないわ。」
「すてきでしょう? 皆、古鞄の中にあったのよ。魔法の神に伺ってみたら、トランクを開けてみろと仰しゃったの。」
「でも、お嬢さん、セエラ嬢さんにいちいち何だか話しておもらいなさい。ね、あれはみんな――セエラ嬢さん、この方にも話しておあげなさいよ。」
で、セエラはアアミンガアドに、黄金《こがね》のお皿のこと、まる天井のこと、燃えさかる丸太のこと、きらめく蝋燭のことなどを話して聞かせました。魔法の力の助けで、アアミンガアドもそれらのものを朧《おぼろ》に見る気がしました。手籠の中から、寒天菓子や、果物や、ボンボンや、葡萄酒が取り出されるにつれ、宴会はすばらしいものになって来ました。
「まるで、夜会ね。」と、アアミンガアドは叫びました。
「女王《クウィイン》様の食卓みたいだわ。」と、ベッキイは吐息をつきました。
すると、アアミンガアドは眼を光らせて、
「こうしましょう、ね、セエラ。あなたは宮様《プリンセス》で、これは宮中《きゅうちゅう》の御宴《ぎょえん》なの。」
「でも、今日の主催者はあなたじゃアないの。だから、あなたが宮様《プリンセス》で、私達は女官なの。」
「あら、私なんか肥っちょだから駄目よ。それに宮様《プリンセス》はどうするものだか、知らないんですもの。だから、やっぱりあなたの方がいいわ。」
「あなたがそう仰しゃるなら、それでもいいわ。」それから、またセエラは何か思いついたらしく、さびた煖炉の所に飛んで行きました。
「紙屑や塵がたまってるから、これに灯をつけると、ちょっと明くなるわ。すると、ほんとうに火のあるような気がするでしょう。」
セエラは火をつけると、優雅《しとやか》に手をあげて、皆をまた食卓へ導きました。
「さア、お進みなされ御婦人方。饗宴のむしろにおつき召されよ。わがやんごとなき父君、国王様には、只今、長《なが》の旅路におわせど、そなた達を饗宴に招《しょう》ぜよと、妾《わらわ》に御諚《ごじょう》下されしぞ。何じゃ、楽士共か。六絃琴《ヴァイオル》、また低音喇叭《バッスウン》を奏でてたもれ。」そういってから、セエラは二人にいってきかせました。
「宮様《プリンセス》方の宴会には、きっと音楽があったものなのよ。だから、あの隅に奏楽場《そうがくじょう》があるつもり[#「つもり」に傍点]にしましょう。さ、始めましょう。」
皆がお菓子をやっと手にとるかとらないうち、三人は思わず飛
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