とりと落ちました。ラヴィニアは少女の方へ振り向きました。
「あの娘《こ》、聞いてたのよ。」
 とがめられた少女は、いきなり箒《ほうき》を取り上げ、石炭函を抱えて、怯えた野兎《のうさぎ》のようにそそくさ[#「そそくさ」に傍点]と出て行きました。
 それを見ると、セエラはむらむらして来ました。
「私、あの娘が聞いているのを知っていたのよ、なぜ聞いてちゃアいけないの?」
 ラヴィニアは大気取りで頭を振り上げました。
「そりゃア、あなたのお母さんは、女中にお話をしてやってもいいと仰しゃるかもしれませんさ。だけど、私のお母さんは、そんなことしちゃアいけないと仰しゃってよ。」
「私のお母さんですって?」セエラは吃驚《びっくり》したようにいいました。「ママはきっといけないなんて仰しゃらないと思うわ。ママは、お嬢さんであれ、女中であれ、誰であれ、同じようにお話を聞いていいとお思いになってるわ。」
「でも、あなたのママは、もうお亡くなりになったんでしょう。亡くなった方に、どうしてそんなことが解るの?」
「じゃア、ママにそれが解らな[#「らな」は底本では「なら」]いって仰しゃるの?」セエラは低い、きびしい声でいいました。すると、ロッティがそこへ口を出しました。
「セエラのママは、何でも知ってるのよ。あたいのママもよ。――ここでは、セエラがあたいのママだけど、もう一人のママには何でも解るのよ。往来はぴかぴか光っててどこもかしこも百合の原で、皆百合を摘んでるの。いつだったか、あたいが寝る時、セエラちゃんが話してくれたわ。」
「まア悪い人。」ラヴィニアは、セエラの方に向き直っていいました。「天国のことを、お伽噺にして話すなんて。」
「でも、聖書の黙示録《もくじろく》の中には、もっと素敵なことが書いてあってよ。ちょっと開けて読んで御覧なさい。私のお話がお伽噺だか、お伽噺でないか、どうして解るの? もう少しお友達に対して親切な心持を持ってごらんなさい。そうすれば、私のお話がお伽噺じゃないことも解るでしょう。さ、ロッティ向うへ行きましょう。」
 セエラはロッティと伴れ立って歩いて行く間も、そこらを見廻してみましたが、あの小娘はどこにも姿を見せませんでした。
 その晩、セエラは女中のマリエットに、
「あの火をおこしに来る子は、何ていうの?」
と訊ねてみました。マリエットは、その子についていろいろのこ
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