でした。涙の眼を開いて見ると、そこに立っているのはあのセエラでした。ロッティはセエラを認《みとめ》るまで、ちょっとの間泣きやんでいましたが、すぐまた泣きはじめなければなるまいと、思ったようでした。が、そこらはあまり静かだし、セエラは黙って立っているので、泣くのにも気がのりませんでした。
「わたい――お――お――おかあちゃんが――ないイ!」
「あたしだって、ないわ。」
思いがけないセエラの言葉に、ロッティはたちまちじたばたするのをやめて、寝たままセエラの方をじっと見はじめました。ロッティはまだ泣き足りない気持でしたが、やっと少し拗ね泣きが出来ただけでした。
「お母ちゃん、どこ?」
「お母様は天国へいらしったのよ。でも、きっと時々私達に逢いにいらっしゃるのだわ。私達の眼には見えないけど、あなたのお母様だって、きっとそうなのよ。お二人は今頃、私達を見ていらっしゃるかもしれないわ。お二人とも、きっとこの部屋にいらっしゃるのよ。」
ロッティはいきなりしゃんと坐って、あたりを見廻しました。彼女は美しい巻毛を持っていました。円《つぶ》らな彼女の眼は、濡れしとった忘勿草《わすれなぐさ》のようでした。
セエラは、母のことをいろいろに話しつづけました。
「天国は花の咲いた野原ばかりなのよ。微風《そよかぜ》が吹くと、百合《ゆり》の匂いが青空に昇って行くのよ。そして、皆いつでもその匂いを吸っているのよ。小さい子達は花の中を駈け廻って、笑ったり、花輪を造ったりしているの。街はぴかぴか光ってるの。いくら歩いても疲れるなんてことはないの。どこにでも行きたいところへ飛んで行けるの。それから町のまわりには、真珠や金で出来た壁が立っているの。でも、みんなが行って寄りかかれるように低く出来ているのよ。みんなそこから下界を覗いては、にっこり笑って、そしていいお便りを送って下さるのよ。」
セエラがどんな話をしたにしても、ロッティはきっと泣きやんで、うっとりと聞きとれたことでしょう。ましてこの話は、他のどんな話よりも美しいものでした。ロッティはセエラの方にすり寄って、一言々々に夢中になっているうち、いつの間にかもうおしまいになってしまいました。ロッティはあまりの残り惜しさに、またしても泣き出しそうな口の尖らせ方をしました。
「わたいも、そこへ行きたいわ。わたい――学校、お母ちゃんいないイ!」
セエラ
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