さか》いの中に飛びこんで行きたくなる性癖《くせ》のセエラでした。
「もしセエラが男の子で、二三百年前に生れていたら。」と、よくお父さんはいったものです。
「抜身《ぬきみ》をひっさげて、苦しんでいる人なら、誰でも助けたり庇《かば》ったりしながら、諸国を遍歴《へんれき》しただろうになア。この子は困っている人達を見ると、いつでも戦いたくなるのだから。」
 課業が終ると、セエラは肥った少女を探しに出ました。少女はしょんぼり窓の下の席に蹲《うずくま》っていました。セエラはこんな場合誰でもいうようなことを云っただけなのでしたが、セエラがいうと、それは何かしら情が籠《こも》っていて、気持よく聞えるのでした。
「お名前、何て仰《おっ》しゃるの?」
 肥った少女は吃驚《びっくり》しました。新入生は初め妙に近づきにくいものである上、セエラは前の晩から皆の間でいろいろ噂の出た新入生で、馬車や、小馬や、おつきの女中や、身のまわりのものから考えても、ちょっとよりつきにくい少女なのでした。
「私、アアミンガアド・セント・ジョンって名なのよ。」
「私はセエラ・クルウ。あなたのお名前、ほんとに綺麗ね。まるでお伽噺《とぎばなし》の名みたいに聞えるわ。」
「あなた、お好き?」とアアミンガアドは飛び上りそうになっていいました。「私――私はあなたの名前大好き。」
 セント・ジョンは、学者の父を持っているために、いつも苦しめられていました。父は七八ヶ国語に通じ、何千巻の蔵書を暗記しているというような人でした。ですから、父は娘が、簡単な歴史やフランス語ぐらい覚えるのがあたりまえだと思っているのでした。ところが、セント・ジョンは学校の中でも一番頭が悪いほどだったのです。
「こいつは、無理にも覚えさせるようにして下さらなければ駄目です。」と、父はミンチン女史に頼んだのでした。
 こういう訳で、アアミンガアドは、いつでも恥しめられたり、泣かされたりしていました。彼女は覚えたかと思うと、すぐ忘れてしまいました。覚えこんでも、何のことだか一向解らないという風でした。で、彼女は、セエラを感嘆の眼で見るより他ありませんでした。
「あなた、フランス語お上手なのね。」
 セエラは大きな、奥の深い窓際席《ウィンドウシイト》に坐り、両手で縮めた足の膝を抱いていました。
「自家《うち》でしょっちゅう聞いていたから話せるのよ。あなただ
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