のある事というのは、カアマイクル氏がモスコウから帰って来ることでした。氏の帰朝は、予定より何週間も遅れたのでした。初めモスコウに着いた時には、索《もと》める家族がどこにいるものか、少しも判りませんでした。やっと尋ね当てて行ってみますと、あいにく旅行中で不在でした。旅先に追いかけて行こうとしても無駄だったので、氏はその人達の帰るまでモスコウで待つことにしたのでした。
カリスフォド氏は安楽椅子に寄りかかり、ジャネットはその下に坐っていました。ノラは足台を見付けて坐り、ドウナルド(ギイ・クラアレンスのこと)は皮の敷物の飾りについている虎の頭に跨《またが》っていました。少年はかなり乱暴に頭をゆすっていました。
「ドウナルド、そんなに噪《さわ》ぐんじゃアありませんよ。」と、ジャネットはいいました。「御病人に元気をつけてあげようっていう時には、そんな金切声を出すものじゃアありませんよ。カリスフォド小父さん、喧しすぎやしなくて。」
病人は、彼女の肩を軽く叩いて、
「いや、そんなことはない。噪いでくれた方が、考えごとを忘れていいのだよ。」
「僕は、これから静かにするよ。」と、ドウナルドはいいました。「みんなで、二十日鼠のようにおとなしくしようじゃアないか。」
「二十日鼠が、そんな大きな音をさせるものですか。」
ドウナルドは手巾《ハンカチ》で鐙《あぶみ》を造り、虎の頭の上で跳ね躍りました。
「鼠がありったけ出て来たら、このぐらいの音はさせるよ。千匹ぐらいいりゃア、するよ。」
「五万匹集ったって、そんな音しやしないわ。一匹の鼠ぐらい、おとなしくしなきゃア駄目よ。」
カリスフォド氏は笑って、また彼女の肩を叩きました。
「お父様は、もうじきお着きになるのね。あの行方不明の娘さんの話をしてもよろしくって?」
「私は今、その話よりほか、とても出来そうにない。」
印度紳士は、疲れた顔の額に皺をよせました。
「私達は、その子がそれは好きなのよ。みんなでその子のことを、『妖女《フェアリイ》ではないプリンセス』って呼んでるの。」
「なぜ、そう呼ぶの?」
「こういうわけなの。あの子は、ほんとうは妖女《フェアリイ》じゃアないけど、見付かった時には、まるでお伽噺の中のプリンセスみたいに、お金持になるのでしょう。初めは『妖女《フェアリイ》の国のプリンセス』といってたんですけど、そいじゃアしっくりいか
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