ら。」
乞食娘は、思いがけないよろこびにかえって怯えたらしく、セエラの顔を穴のあくほど見ていましたが、じきひったくるようにパンを取ると、夢中で口の中につめこみました。
「ああおいしい、ああおいしい。ああ、おいしい。」
嗄《しゃ》がれた娘の声は、聞くに忍びないようでした。セエラは甘パンをあと三つ娘にやりました。
「この子は、私よりもひもじいのだわ。この子は餓死《うえじに》しそうなのだわ。」四つ目のパンを渡す時、セエラの手はわなないていました。「でも、私は餓死《うえじに》するほどじゃアないわ。」そういって、セエラは五つ目のパンを下に置きました。
餓えきったロンドンの野恋娘《のこいむすめ》が、夢中でパンをひったくり、貪り食っているのを見棄てて、セエラは「さようなら。」といいましたが、娘は食べるのに夢中でしたから、礼儀を弁《わきま》えていたにしたとこで、セエラに一言《いちごん》お礼をいう暇もなかったに違いありません。まして彼女は、礼儀などというものは、少しも知らぬ野獣に過ぎなかったのでした。
セエラは車道を横切って、向う傍《がわ》の歩道に辿りついた時、もう一度娘の方をふりかえって見ました。娘はまだ食べるのに夢中でしたが、かじりかけてふとセエラの方を見て、ちょっと頭を下げました。娘はそうしてセエラが見えなくなるまで、かじりかけのパンをかみきりもせず、じっとセエラを見守っていました。
ちょうどその時、パン屋のおかみさんが窓から外を覗きました。
「おや、こんな事ってないわ。あの娘はくれともいわないのに、この乞食にパンをやってしまったんだね。しかも、自分は食べたくないどころか、あんなにひもじそうな顔をしていたのに。」
おかみさんは窓の奥でちょっと考えていましたが、何でも、様子を訊いてみたくなったので、乞食娘のいる方へ出て行きました。
「そのパンは、誰にもらったの?」
娘はセエラの行った方に頭を向けて、こっくりしました。
「あの子は、何といったの?」
「ひもじいかって。」
「で、何と答えたの?」
「その通りだといったの。」
「すると、あの子はパンを買って、お前にくれたのだね。」
娘はまたこっくりをしました。
「で、いくつくれたの?」
「五つ。」
おかみさんは考えこんで、小声にいいました。
「自分のためには一つしか残しておかなかったのだよ。食べようと思えば、一人で六つ
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