接吻《キス》していました。

      二 フランス語の課業

 次の朝、セエラが教室へ入って行きますと、生徒は皆眼を見張って、物珍しそうに彼女を見つめました。生徒達はもうセエラのことをいろいろ聞いて知っていました。前の晩到着したセエラ附《つき》の女中、フランス人のマリエットをちらと見たものさえありました。すっかり大人顔をしているラヴィニア・ハアバアトなどは、開きかけた扉《ドア》の間から、マリエットがどこかの店から着いた箱を開けているのを見たくらいでした。
「レエスの縁飾《フリル》[#ルビの「フリル」は底本では「フルリ」]のついた下袴《ペティコート》で一杯だってよ。」ラヴィニアは身をこごめて地理の本の上から、ジェッシイに囁《ささや》きました。「あの方、今もあの下袴《ペティコート》を着けてるのよ。腰をかける時ちょっと見えたわ。」
「まあ、あの方の靴下絹ね。」ジェッシイも地理書越しに小声でいいました。「それに、可愛い足ね。」
「でも、足なんて靴次第で小さく見えるものよ。それにあの方、ちっとも綺麗じゃアないのね。眼だって変な色だわ。」
「綺麗さがちょっと違うのよ。なんだか振り返って見たくなるような顔よ。そして睫の長いこと!」
 セエラは静かにミス・ミンチンの机のそばの、自分の席につきました。セエラは皆に見られても別に羞らう様子もありませんでした。かえって、自分を見つめている子供達が珍しいので、静かに皆の方を見返すのでした。皆は何を考えているのかしら? 皆はミンチン先生が好きなのかしら? めいめいの課業に精を出しているのかしら? みんな私のパパさんみたいなパパさんを持っているのかしら? などと思ってもみました。セエラはその朝、エミリイと永いこと父の噂をして来たのでした。
「エミリイ、お父様は今頃もうお船の上よ。仲よくして何でも話し合いましょうね。私の顔をごらんなさい。まアお前は、何て綺麗なお眼々をしているんでしょう。ほんとに、お前お口がきけたらいいのにね。」
 セエラは空想や気まぐれな考えを一杯持っていました。エミリイを生きたものと考えて、そこに限りないよろこびを感じるのも、その空想の一つでした。セエラは女中に紺の学校服を着せてもらい、同じ色のリボンを結んでもらってから、椅子の上のエミリイに本を一冊持って行ってやりました。
「私が教室へ行っている間、それを読んでらっしゃい
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