て、床に坐っていました。
「それにあれは、私の友達としてつかわされたバスティユ鼠なのよ。」
「まだバスティユのつもりなの? いつでも、ここはバスティユだというつもり[#「つもり」に傍点]でいらっしゃるの?」
「たいていそのつもりよ。時とすると、どこか別の所のつもり[#「つもり」に傍点]にもなるけど、バスティユのつもり[#「つもり」に傍点]になら、すぐなれるわ。殊に寒い日などには。」
 ちょうどその時、アアミンガアドは寝台《ベット》から転《ころが》り落ちそうになりました。向うから壁をコツ、コツと叩く音を聞いたからでした。
「なアに? あれ?」
 セエラは立ち上って、お芝居の口調で答えました。
「あれこそは、隣の監房にいる囚人じゃ。」
「ベッキイのこと?」
「そうよ。こうなの、コツ、コツ と二ツ叩くのは、『囚人よ、そこにいるのですか?』という意味なの。」
 セエラは返事でもするかのように、こちらから壁を三度叩きました。
「ね、これは、『はいおります。別に変りはありません。』という意味なの。」
 すると、ベッキイの方から、コツ、コツ、コツ、コツと、四つ叩く音がしました。
「あれは、こうなの、『では、同胞《きょうだい》よ、安らかに眠りましょう。お休みなさい。』」
 アアミンガアドは、うれしさのあまり眼を輝かせました。
「まるで、何かのお話みたいね。セエラさん。」
「みたいじゃアなくて、ほんとにお話なのよ。何だってかんだって物語だわ。あなただって一つの物語だし――私も一つの物語よ。ミンチン先生だって、やっぱり物語だわ。」
 セエラはまた床に坐って話し出しました。アアミンガアドは、自分がいわば脱走囚のようなものだということなぞ忘れて、セエラの話に聞きとれていました。で、セエラは彼女に、このバスティユに夜通しいてはならないから、そっと梯子を降りて、自分の寝室《ベット》へ行くように、注意しなければなりませんでした。

      十 印度の紳士

 が、アアミンガアドやロッテイは、そう毎晩屋根裏に忍んで行ったわけではありません。セエラはいつ行っても屋根裏にいるというわけではありませんし、抜け出たあとをアメリア嬢に見舞われる惧《おそ》れもないではありませんでした。で、セエラはたいてい一人ぼっちでした。彼女は屋根裏に一人いる時よりも、階下《した》で皆の間にいる時の方が、よけい一人ぼっち
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