まいかと、私気にしていたのよ。」セエラは考え深そうに額に皺を寄せて、「ことによると、それを私に解らせるため、辛い目にあわせられたのかもしれないわ。」
「そんな目にあったって、ちっともありがたくはないと思うわ。」
「私だって、ほんとうはありがたいと思ってるわけじゃアないのよ。でも、私達にはわからないところに、よいものがないとも限らないでしょう。ミンチン先生にしたって――。」
 セエラは疑わしげに――「いいところが、あるのかもしれないわ。」
 アアミンガアドは、怖々《こわごわ》そこらを見廻して、セエラに訊ねました。
「あなた、こんなところに住めると思うの?」
「こんな所でも、こんなじゃアないつもり[#「つもり」に傍点]になれば、住めると思ってよ。でなければ、これは、あるお話の中の場面だと思っていればね。」
 セエラは静かに語りました。うまい具合に空想がまた働き出して来ました。ふいに辛い目にあってからこのかた、セエラは一度もまだ、空想によって慰められたことがなかったのでした。
「もっとひどい所に住んでた人もあるのよ。モント・クリスト伯爵はシャトオ・ディフの牢屋に押しこめられていたでしょう。それから、バスティユに抛《ほう》りこまれた人達だってあるでしょう。」
 アアミンガアドは口の中で、
「バスティユ。」といいました。いつかセエラが芝居がかりで話してくれた事がありましたので、アアミンガアドもフランス革命の話だけは覚えこんでいました。
 セエラの眼は、いつものように輝いて来ました。
「つもり[#「つもり」に傍点]になるのは、バスティユがいいわ。私はバスティユの囚人なの。私は、もう幾年も幾年もここに押しこめられていたの。世の中の人達は皆、私のことなんか忘れてしまっているの。ミンチン先生は監守で、それからベッキイは――」ふと新しい光が、セエラの眼に加わりました。
「ベッキイは、お隣の監房にいる囚人なの。」
 セエラは、昔の通りな顔になって、アアミンガアドの方を向きました。
「私、そのつもり[#「つもり」に傍点]になるわ。つもり[#「つもり」に傍点]になってると、どんなにまぎれていいかしれないわ。」
 アアミンガアドは、たちまち夢中になりました。
「そしたら、私にもつもり[#「つもり」に傍点]のお話をみんなしてちょうだいね! 見付けられそうもない晩には、いつでもここに来ていいでしょ
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