統の唖かも知れなかったのである。
「お嬢さんの名は?」と私は試しに尋ねた。
「ミサ……」と女性は服従的に答えた。
 おお此の女性は本当の悪人ではない。彼の女はすっかり恐怖している。そして私を巡査と同じように尊敬している。人が悪事を後悔した瞬間程屈従的な心に変ずるものはない。そんな時には弱い子供に打たれても、打ち返す力さえ出ないのである。
「之、貴方の家?」私は少し威嚇的に訊ねた。屈従に対して威嚇を強いるのは人間の持ち前である。
「ええ……」
「あしたの晩、ここへ忍んで来るから会って下さいね。私は貴方を美しいと思ってるんです。」私はやさしく、大人しく頼んだ。
 女性の顔は再び変った。彼の女はよろけながら後じさりをした。困惑と絶望とが体中に見えた。
「ああ……それは……」
「いけないと云うんですか?」
「でも……」
「あの事……あの事が世間へ知れたら困りますよ。分ってますね。」
「分ってます。さ。お返ししますわ。許して下さいましね。」娘は初めて涙を落した。
「それは入りません。そのハンカチを下さい。」私は斯う云って女性の手にあるハンケチを取り上げた。
「では、きっと私に会って下さいね。私は
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