な男が、如何に彼自身も亦社会を不当に取り扱うか。」と云う事の実例を求めるため、私は又私の流儀で、十三人の人を斬るには何んな決意と勇気とを要するかを知るために、耳を澄ましたのである。
 約《つづ》めて云って了えば斯うである。哀れな被告、高と云う名の朝鮮人は、裁判長のやさしい質問に対し、一気に答えるのであった。
「私は馬鹿者です。何故この日本へやって来たのか? それが分らないのです。いや分っている。故郷で義理の兄にえらく侮辱され、蹴飛ばされたんです。その有様を、私の恋している女が見て笑ったのです。それで日本が大変恋しくなって、そこへ行ったら、お金にもなり、やさしい人が待っていて呉れるように思えて、到頭、跣足になる程貧乏しながら、このお国へ渡って来たのです。それから六神丸と云う薬と翡翠とを行商して日を暮し、もっと悪い事もしながら、夜学で法律普通科を半分やりました。電車の車掌になってからは、日本人の女工を妻に貰いましたが、その女は私の子を妊んで呉れないのです。「何うか一人丈でも好いから生んで呉れ。」と願っても、女は唯笑っていて、やはり生んでは呉れないのです。私はそれが不思議で困りました。きっと
前へ 次へ
全146ページ中79ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
松永 延造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング