文章ではあるが思っている事の十分の一位は表現出来ている。二人はそんな話をきいて悲しみのあまり手紙を書いたのであろう。そして可哀想に文章にはその悲しみさえよくは表れていないのである。
その又次には妹がよこした。
「……姉はあんな病気をしたのですもの。決して心配はありません。きっとまだ出来ては居りませんでしょう。又そんな事をきいても見ません。けれど私は丁度年も宜敷く、丈夫な身ですもの、今度こそは妊娠だと思います。ああ、あなたは何うして下さいますか。此の前のように間違いであったら好いと思っていますが。今度は何うしても間違いではありません。何うしてもそうのようです。怨みます。もう死んで了います。早く来て下さい。私丈と逃げて下さい。」
姉の方は姉の方でやっていた。
「……貴方はあんまりです。私は川へ入って死んで了います。妹と一緒に死にます。あの此の間あった話のように。……妹は毎日吐いています。あれは妊娠したのです。けれど貴方の子ではありません。あれはまだ他に古い馴染を持っています。貴方はそれを信じないのですか。」
未だ未だ手紙は来ては破かれ、捨てられた。
「畜生!」と私は独りで怒鳴った。「手前達二人に情死なぞ出来るものか? お互いに殺しっこをしても自分は救われようとしている癖に、二人で川へなぞ入れるものかい、馬鹿! 手前等は引き潮の時に潮干狩りでもしやがれ。二人で引かき合え。喰いつき合え。だが何うして一緒に姉妹心中なんかが出来るもんかい。」ああ之は何と云う無慈悲であったろう。
妹の冤罪で憤怒し狂乱している私の心は全く悪辣になった。私は自分でそれを悲しみ、泣き、悔い、又怒った。そして結局は何も悲しまず、悔いないのと同じであった。
そして時には、自分と自分の周囲とを忘却するために、憎んでいる女等のもとに走っては、獣の如きことを繰返した。女等はその度に思い出して私を怨み、時には柔かな手で私の頬を打った。何故か私は「打て、もっと打て!」と叫びつつ、少しも抵抗しなかった。それは相手を憐愍するから起る忍耐ではなく、ああ実に、聴く人があらば聴いて貰いたい、実に、それは、自分から自分を侮辱し軽蔑する自棄と放胆とから生じた忍耐であった。
では之が一切であったか。之が起った事の凡てであったか。いや、之からが本統の話しになるのである。
云い忘れて了ったが、私は病院に寄食していた頃、カ
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