だ、胎児の屍体が隠してあって、それが匂い出した為め、近所の大騒ぎになっているんです。」
おお、之が本統の事であろうか? ミサ子は家出したのである……家出……家出と犯罪……そして転居……転居と犯罪……警察官の嫌疑は当然であった。
ミサ子はその行衛を見附けられなかった。そして、彼の女が居たと叫ばれた時には、もう元通りの彼の女ではなかったであろう。何んなに私の記憶が乱れようと、それ丈は確かな事である。
彼の女は横って居た。彼の女は骨を砕いていた。そして、そして何か? そして、もう妊娠もしていなかったのである。この事が死の重大な原因であったのか? 何? いや原因ではない。寧ろ結果と云うベきであろう。実に、実に悲しむ可く痛ましい結果。結果として表われた事実なのではないか。
「お母さん。貴方は知っていたんですか。」私は斯う尋ねて眼を閉じた。
「知らない。知らない。この事はすべて秘密だらけです……第一、全体、それは誰の子なのです?」
私は息が詰まった。誰の子? 神よ、貴方は私に子を授けて下さった。それだのに、私はそれを受け取れなかった。何故か? 一寸した行きがかり――一寸した不注意――一寸した愛の不足! ああそれは原因でもあり、結果でもあるのだ。
下さるものを拒んだのが間違いの原因であった。いや原因はもっと前にある。之は寧ろもう結果に近い一つの過失ではなかったか?
私は明晰には考えられない。何故なら……いや何故ならではない。之は何かしらあのセルロイド職工に、又あの断崖に関係していたに相違ない。私が悲しい足取りで、あの職工を呼びに行き、彼にミサ子の死に際を見せてやり、又ミサ子の霊へ一つの重要なそして最後の思い出を土産として持たせてやったのも、実に、私がそんなに漠然とした関係を直覚したからであった。
私は何うしよう。又分らなくなっている。ミサ子は私を恨めし相に睨めた。
そしてセルロイド職工を微笑みを以て眺めた。そして誰れが彼の女を殺したのであろう。
一体之は何であり、何の結果であるか?
私は義侠心から彼の女を愛したと思われている。そしてあの職工は唯淋しさから、或いは戯れに類する嫉妬から彼の女を愛したと思われている。そしてその内何方が正しいか? いや、正しくなくとも、何方が正しさに近いか? 分りはしない。唯ミサ子の心は何かしら独自のそして特殊の判断を下していた。いや
前へ
次へ
全73ページ中70ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
松永 延造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング