何丈か下の砂路へ飛び降りて、自殺を計ったのであった。
彼の女は死に切れないで、病院へ連れて来られた。けれど大きい怪我――諸所の骨が破れたらしい――は、もはや彼の女を三日と此の世に置く事を許さなかった。
教員は何時もの柔和な言葉つきで、彼の女の死ぬ前に一度丈会ってやって呉れと私に嘆願した。
「何故です?」と私は恐怖してたじろいだ。
「今度の事件は少しばかり貴方にも関係があるように思えますし、屹度ミサ子は貴方に会いたがっているに相違ないのです。」之等の言葉の中には一つの怨恨も憤怒も含まれていなかった。それどころか、教員の眼の中には、澄んだ涙が湧き起って来て、私に憐れみを乞うている如くにさえ見えた。私は顫えて彼の肩に靠れ、進まぬ足で病院に向った。それから?
「さ、貴方の待っている人が来たよ。ミサ子!」と教員は悲愁の限りを尽して云った。けれども人事不省に落ちているらしい女性は眼を開く事が出来なかった。之は何たる急激な変化であろう。
教員は深い嘆息と共に、私の方を顧み、そして世にも哀れな面持で、語り継ぐのであった。
「聞いて下さい。おお、見て下さい。この凄じい痩せ方を! 家を出る時、たった一円八十銭しか持って居なかったミサ子は、それを全部出して、汽車の切符を買って了ったのです。何故汽車へ乗ったか? 何処かへ逃げる積りだったのか? そうではない。唯進退谷って、もう行き場がなくなったのです。世界は斯んなに広いのに……罪と痛みに追われる者は、その中に安心して住む所を見出し得ないのです。可哀相なミサ子! お前は何処か遠い停車場迄用もないのに乗り越しをして了った。それから、きっと歩いて息を切って、再び此の街へ帰って来たのだ。お前はそんなに無駄な骨折をしながら、迷って泣き暮したのだ。きっと野原や知らぬ家の物置やに眠らねばならなかったろう。ああ誰れが云うか――野原に寝る少女は不良だと! いや、その少女を野に眠らせるようにする私達の方が……私の方が……何んなに不良だろうか! 見てやって下さい。見て……。僅かな日の中に、ミサ子は斯んなに痩せ細って、年を取って了った。悩みで痩せ、それから断食で細ったのだ。何処かの泉で飲んだ水は、皆涙になって了ったんだ。斯んなに眉毛が取れて了って、そして、恐しい事に、髪の毛があんなに抜けて落ちる。
断食……ミサ子は態と食べずに居たに相違ない。死のうと思って
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