彼等は燈火の光を厭相に眉へ皺を寄せて見やり、又独り言を呟いて、静かに! と注意されたりしました。皆が皆背光性の虫か長い魚の様でした。
『覚えてお出でなさい!』私はその言葉を考え続けて居りました。私は思い切って外へ飛び出し、夜更の町を通って、警察へ此の事を訴えました。大勢の人は巧みに逃れましたが、父丈は酔っていた為めに捕えられて了いました。
 斯んな忌わしい事件が起って後、若い母親の機嫌は大変嶮しくなりました。『お前は父親を罪人にした不孝者だ。何うして此の仕損じを償うか。』と私は責められました。そして私の良心も堪えられぬような手痛い傷を受けて悩み初めていたのです。私は真にあの罪の憎む可き事を考えて警察に訴えたのか? それとも父へ向って実母と自分との受けた侮辱を復報するためであったか? それが混乱した頭には分りませんでした。
 その中に父が監獄から帰って来て、大きい荒立った声で申しました。
『娘! 貴様に今日からバクチのやり方を教えてやるぞ! 馬鹿! お父さんに勝てる迄修業するんだ。さあ、やれ、斯うするんだ!』
 私は泣いて謝罪しましたが、気の荒立った父は何うしても肯きませんでした。監獄へ行く前よりも一層多くの悪辣と薄情とが父の心を横行して居りました。
 父を懲役人にした事の悔恨は益す私の胸に響きました。そして何が善で何が悪かも分らなくなって、唯済まないと云う心持で一杯になりました。私が父の命に服従し、父の荒立った心を少しでも慰め、又鎮めようとしたのは実にその為めだったのです。
 私はおハナを習いました。肩を打たれ乍ら色々の秘術を教授されました。ああ細い事は申せません。私は唯上手になって了ったんです。男の中へ入って一度敗れば二度勝つようになって了ったのです。
 ああ父は私にいやらしい事を云いつけたのです。『帳場へ坐ったら、若い女はなる可く膝を崩せ!』というのがそれなんで御座います。そうすると若い男たちの注意力が二つに割れて分れて了う、勝負に必要な思わくや相手の持っている札の種類を皆忘れて了う、と云うのが父の考えなので御座いました。
 私は悲しくて泣いていると、何時も後ろから蹴られました。そして、或夕方、私の家へ隣りから飛んで来たハンケチを、私が拾って返そうとしました時、継母が『一寸お待ち、』と云ってそれを取り上げると、又父が私を蹴りました。
『私は鞠じゃないんだよ!』と
前へ 次へ
全73ページ中54ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
松永 延造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング