を始めて知りぬ。
予は今茲に予の經由せる地方、目撃せる事物の縷述を敢てせざるべし。彼の國人の著書既に充棟なるのみならず、予のとりし道は數多の邦人の往來せる所にして、之を説かむことは遼東の豕の譏りを免れざればなり。さりながら其中に就きて、今尚夢寐に忘れ難きもの二三あり。滬杭鐵道沿線の光景の如き其一なり。滿目の桃林と菜花とは云はずもがな、運河の支脈は村落の中を縱横に貫きて野人の家を繞ぐり、隣家を訪ひ隣村に赴かむとする者、必ず小船に棹して柳暗花明の間を過ぐ。人若し欲すれば、上海よりして杭州に至るまで、此船中の歡を繼續することを得べし。地勢平坦なれど斷絶多くして、縱まに車馬を驅るに適さざること彼の※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ニスに似て、而かも地域の廣狹は固より同日に論ずべきにあらず。而して彼は海、此は河なれど、ゴンドラの風流の一端、亦之を此處に娯むを得べし。然れども若し更に此地方の適切なる匹儔を歐羅巴に求めば、獨都伯林を流るゝスプレーの、其上流の風光最も之と相若けり。予のスプレー・ワルドに遊びしは、同地方の最好季節と稱せらるゝ昇天祭に先つこと二ヶ月許り以前、木の芽も未だはり競はざる
前へ
次へ
全14ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 勝郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング