達の常に求心的傾向を有し、次第に其完成の中心に近からむとするものなることは爭ふべからずして、而して其完成は即發達の停止を意味す。斯くして成れる文明の價値に差等あるは、猶ほ圓の半徑に千差萬別あるが如くにして、而かも其半徑の長短に拘はらず何れの圓も夫れ自らに完きものなると同じく、個々の文明の發達には自ら其限りあり。支那民族の文明は數世紀以前に於て既に其完成の域に入りたるもの、換言すれば發達の終りたるものにして、其停滯は科擧の爲めの故にあらず、其命數の既に窮まれるなり。而して南京の貢院の如きは、即舊文明が殘こせる形體なり。羅馬のコロッセウムにも比すべき絶好の一大記念物なり。予は偏に支那政府の其意を貢院の保存に致し、命數の免れ難きを忘れて猥りに罪を科擧に歸するなからむことを希はざるを得ず。



底本:「日本中世史の研究」同文館
   1929(昭和4)年11月20日初版発行
初出:「藝文」第六年第五號
   1915(大正4)年5月発行
※「逢[#「逢」は底本では「蓬」][#二]秋風桂子之年[#一]、」の修正は、初出に拠りました。
※その他の修正は、文意から判断しました。
※「屡櫪間[#「櫪間」は底本では「※[#「てへん+歴」、749−8]間」]に老いしむる恐れあり」に関連して、曹操「歩出夏門行」には、「老驥伏櫪、志在千里」とあります。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:はまなかひとし
校正:湯地光弘
2004年5月17日作成
2004年10月28日修正
青空文庫作成ファイル:
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