真理の開拓者であり、進歩の使徒であり、極度に無慾純潔、少しも驕慢、自負、自家宣伝等の臭味がなかった。それでこそ、あれほどの仕事ができたのである。若《も》し彼等にして一片の利己心があったなら、そは必ず彼等の成功の心臓部を喰い破ったであろう。
 われ等が求むる所は、右にのぶるが如き人物である。慈悲心にとみ、熱情にとみ、自己を忘れて真理を求め、神業一つを睨みつめて、現世的欲求を棄てて顧みない人物がほしいのである。そんな人格が暁天《ぎょうてん》の星の如く稀であるべきは、元よりいうまでもない。それ丈けそう言った人格は尊い[#「尊い」は底本では「尊 い」]。友よ、落ついた、熱心な、そして誠実な哲学者の心を以《もっ》て心とせよ。又慈悲深く、寛厚《かんこう》にして、常に救いの手をさしのべんとする、仁者の心を以《もっ》て心とせよ。更に又為すべき事を為して、報酬を求めざる神の僕《しもべ》の克己心をこれに加えよ。かかる人格にして初めて、気高く、聖《きよ》く、美しき仕事ができる。われ等としても、最大の注意を以《もっ》て之《これ》を監視し、又警護する。同時に神の直属の天使達も、亦《また》常に温顔を以《もっ》て之《これ》を迎え、露あやまちのないように、特別の保護を与えるであろう。
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問『そう言った人格は、到底現代に求め難いと思うが……』
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 万事は忍耐[#「万事は忍耐」に白丸傍点]――それは少ない、極めて少ない。よしあっても、ただその萌芽に過ぎない。われ等とても、決して人間に向って完全を求めはせぬ。われ等の求むる所は、ただ誠意あるもの、向上心に富めるもの、自由な、吸収力にとめるもの、純潔にして善良なるものである。人間としてあせる心が何よりも悪い。静かに忍耐の心の緒を引緊めることが肝要である。取越苦労と、心配とは絶対に禁物である。できない事は到底できない。思案にあまる事柄は、すべてわれ等に任せ、思いを鎮めて、よくわれ等の述ぶるところを味ってもらいたい。
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(評釈) いささか冗長のきらいはあるが、大体すぐれたる霊界居住者が、人間に対して何を求めるかは、これでほぼ見当がつく。が、顧みて何人か自己の資格の不充分、不完全を歎息せぬものがあるであろうか。これにつけてもわれ等は、かの活神、活仏気取りの浅墓な心懸の人々には
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