オォケストレエションの崇高な抑揚によつて他のすべての音樂を凌駕してゐるリストの或物、それから又、アルプスのあちら側で――今ではこちら側だが――生れたところのすべてのものも例外としたい。……私はロッシニなしにはすまされない、又それと同じ位、音樂における私の南方、わがヴェネチアの大作曲家ぺエタア・ガストなしにもすまされない。そして實は私がアルプスのこちら側といふのは、ただヴェネチアだけを指してゐるのである。もし私が音樂をそれで代用させるやうな一語を求めるとしたら、私はヴェネチアといふ一語をしか見出さないであらう。私には涙と音樂との區別をつけることは出來ないのである。……」



底本:「堀辰雄作品集第五卷」筑摩書房
   1982(昭和57)年9月30日初版第1刷発行
底本の親本:「堀辰雄作品集 第四・晩夏」角川書店
   1951(昭和26)年6月15日
初出:「文藝通信」
   1936(昭和11)年6月号
※初出時の表題は「Ombra di Venezia――手帳より――」、「堀辰雄作品集 第四・晩夏」角川書店収録時「Ombra di Venezia」と副題がはずされる。
入力:tatsuki
校正:染川隆俊
2010年3月5日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング