ニ宿に持ち帰って威張れようが、あいにく手ぶらなので、へんな恰好で、そのままそれをぶらさげて帰った。
 英夫君に東京へお土産《みやげ》にしたまえと勧めたが、帰るのはもう一日延ばして、こっちでそれを皆と一緒に食べて行きたいと云って聞かなかった。
 雉子はまだ辛うじて生きている。それを不自然な殺し方はしたくないので、宿の老犬ジャックを連れて、裏の林へ行って、その雉子を放したら、昔猟犬だったジャックはその逃げようとする雉子を巧みに追い廻しながら、要領よく噛み殺し、羽だらけになった口に銜《くわ》えたまま、それを私達のところへ持って来てくれた。
 雉子は悪食《あくじき》だから、肉が臭いと聞いていたが、鍋にしてもそれほどいやな臭いはしなかった。が、なんだかすこし無気味で、あんまりうまいとも思わなかった。
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   続雉子日記


 英夫君が帰京してから、こんどは私は一人で毎日のように空気銃を手にして、ジャックを連れては、殆ど二三日おきぐらいに降るのでますます雪の深くなった森の中を愉快そうに歩きまわっていたが、少しその度が過ぎたと見え、とうとう十日ほど前から風邪《かぜ》を引いて、いくじ
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